失敗学
「生産活動には、事故や失敗は付き物である。これら、事故や失敗は小さなものから、経済的損失につながるもの、
負傷を伴う大きなもの、さらに多数の死傷者を出す大規模なものまである。「失敗学」は、こういった事故や失敗発生の
原因を解明する。さらに、経済的打撃を起こしたり、人命に関わったりするような事故・失敗を未然に防ぐ方策を提供する
学問である。」 【失敗学会ウェブサイトより】
仕事との関連もあり、「失敗学」について勉強してみることにしました。
畑村洋太郎・東大名誉教授の「失敗学のすすめ」、「失敗学の実践講義」を読みました。
畑村氏は、2011年5月に閣議決定により設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の
委員長であるとともに、失敗学会の創設者でもあり、この道の第一人者と言える方です。
失敗学そのものは、失敗を誹るのが目的ではなく、「失敗は成功のもと」を学問的に追究したような内容であり、
経営学におけるリスクマネジメントやナレッジマネジメントにも通ずる概念のように感じました。
読後感としては、私自身がかつて危機管理の仕事をしたことがあることもあったせいか、取り立てて、何か新しい概念を
得たという感じはしませんでしたが、今後のためにもメモは記載しておこうと思います。
●ハインリッヒの法則(1929年)
労働災害における経験則の一つ。
1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの。
災害について言えば、「重傷」以上の災害が1件あったら、その背後には、29件の「軽傷」を伴う災害が起こり、
300件もの「ヒヤリ・ハット」した(危うく大惨事になる)傷害のない災害が起きていたことになる。
●失敗情報の性質
①失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する
(例)「貸し家と唐様で書く三代目」
初代が苦労して経済的基盤をつくった商売は、その姿を間近で見てきた二代目によって保持される。
ところが、先々代の苦労や失敗を知らない恵まれた環境で育った三代目は、簡単に身代を潰してしまうことがよくある。
②失敗情報は隠れたがる
・失敗は隠したくなるもの。人間の心理としては当然だが、発覚した失敗を嘘をついてまで隠すことはやるべきではない。
(例)三菱自動車リコール隠し(2000年7月)
③失敗情報は単純化したがる
・失敗情報の伝達は単純化せず、細かい経過や原因を含んで行うべき。
(例)「地震がきたら火を消せ」
→火災で多くの犠牲者を出した関東大震災の失敗経験を知識化した言葉だが、単純化されている。
実際は、「地震がきたら、まず振動が収まるのを待って、それからすぐに火を消せ」という教訓。
④失敗原因は変わりたがる
・関係者の利害によって、失敗が意図的に歪曲化される。
(例)医療事故(誤投薬)
→病院の管理体制や看護士への重労働を強いる構造問題に触れず、看護士のミスとして問題を収めようとする傾向。
(例)チェルノブイリ原発事故(1986年4月)
→ソビエト政府は事故原因を単なる運転員の規則違反と発表。原子炉そのものに構造的欠陥あったことをひた隠す。
⑤失敗は神話化しやすい
・悲劇的な物語性のある失敗情報は神話化し、多くの人に伝わる傾向があるが、一面的な見方に偏ってしまいがち。
(例)悲劇の戦艦大和
→戦艦大和はウドの大木を連想する人が多くいるが、戦争が大艦巨砲の時代なら立派な戦艦だった。
しかし、時代は航空機を主体とする戦争であったため悲劇となったにすぎず、こうした時代認識を持てなかった
軍の判断不良が失敗の主因と理解されるべき。
⑥失敗情報はローカル化しやすい
・ひとつの場所で起こった失敗は他の場所へは容易に伝わらない。
⑦客観的失敗情報は役に立たない
・事件・事故の報告書は多くの場合、客観的な立場で全体を見る立場である第三者により作成される。
そのせいか、批判的な論調や無味乾燥なものになる傾向あり。実際に必要なのは当事者から見た主観的な情報。
⑧失敗は知識化しなければ伝わらない
・事象、経過、原因(推定原因)、対処、総括、知識化の6項目で記述すべし。
具体例は、失敗知識データベース(畑村創造工学研究所) にあり。 ttp://www.sozogaku.com/fkd/
●技術の成熟問題
・すべての技術は、①萌芽期、②発展期、③成熟期、④衰退・破滅期をたどる。その期間はおよそ30年程度。
①萌芽期:技術の脈絡がなんとか形になっている状態。選択肢も貧弱。能率悪い。
②発展期:色々なパターンが試され、多くの失敗を繰り返す中で技術が洗練。能率もよく完成度の高いものへ変化。
③成熟期:メインルート以外の選択肢が切り捨てられる段階。効率化のため作業の単線化(マニュアル化)が行われる。
→選択肢が狭められることで技術に対する深い理解ができなくなり潜在能力の低下に繋がる。
④衰退期:メインルートがひ弱になり、やがて破滅。
・組織でも同様に考えられる。
→行政は、企業が設備投資なしに生産量が増えていれば、失敗が発生する素地が成長しているのではと疑うべき。
●懲罰的賠償制度と司法取引
・日本:責任追究と原因究明を同時に行うため、当事者が刑事責任を避けるために原因を意図的にねじ曲げて報告しうる。
・米国:懲罰的賠償制度(意図した失敗や、わかっていても対策を講じなかった未必の故意の失敗には懲罰を与える)や
司法取引(犯罪〔失敗〕の渦中にある当事者に免責の保証を与え、これと引き換えに真相を語らせる)といった法システムあり。
→責任追及と原因究明は分離して進める必要がある。


(丸の内界隈)
(丸の内界隈:三菱1号館)